NPO法人会報第11号の2(続き)


NPO法人移植への理解を求める会 会報第11号の2(続き)


原稿の都合により、1度に掲載できませんでしたので、2回に分けました。続きを掲載します。



 出版                                     

「死の臓器」 麻野 涼
(文芸社文庫)
修復腎移植巡るミステリー

       書評 広島大学名誉教授 難波 紘二
   

久しぶりに良質の社会派ミステリーに接した。
 沼崎恭太はテレビ局の下請け会社でディレクターをしている。出版社で週刊誌の記者として働いていたときに、ある事件で手記を無理やり載せた若い女性が、その直後に自殺し、責任をとって退社したという過去をもつ。

 沼崎のチームが自殺の名所、富士山麓の青木ヶ原を取材に訪れ、偶然に若い女性の死体を発見するところから、全体のストーリーが始まる。死因は大量のハルシオンを服用し、凍死したものだったが、左の腎臓を摘出した跡があり、2年ほど前のものと鑑識された。

 それから半年後、日本初の「腎臓売買事件」が摘発された。舞台となった病院が「修復腎移植」の存在を公表する。現実に起きた事件をモデルにしているが、場所は熊本県A市にある「聖徳会日野病院」に置き換えられている。対立する「慈愛会病院」の院長太田有医師には分院を建てて、この病院から透析患者をうばい、資金を豊かにして代議士になる野望がある。

 ある日、慈恵会病院に躁うつ病の女性患者柳沢裕子が来る。「正徳会病院で、騙されて腎臓を取られた」と担当医に訴える。この話を若い医師から聞いた太田は「私が処理するから、口外するな」と指示する。間もなく、正徳会病院の泌尿器科医日野は警察から事情聴取を受けることになる。その間にも太田の新病院建設計画はすすむ。

 やがて慢性腎不全患者の奥村剛とその内妻が、柳沢裕子から腎臓を買ったとして逮捕される。その後の展開はほぼ実際に起こったとおりである。狭い町に押しかけるマスコミ、日野医師を犯罪者呼ばわりする日本移植学会理事長、日本透析医学会の理事として調査委員会にもぐり込む太田有。透析業界からワイロを受け取り、調査委員会を指揮して修復腎移植を禁止しようと動く厚労省の局長。修復腎移植を声高に糾弾する地元選出の代議士上原宗助。

 上原の資金的バックには共健製薬が付いている。上原の右腕といわれた営業部の船橋甫が急に退社した。連絡も取れなくなった。上原はかつて身内の腎不全患者について、日野に「医の道」に反する要望をして、にべもなく断られたことがあった。
 一方、修復腎移植についてのマスコミの一方的な報道に憤った沼崎は、青木ヶ原遺体について独自調査を開始する。摘出された腎臓は生体腎移植のためではなかろうか?沼崎には小学校長だった父親が、いじめ問題に対するマスコミの一方的報道により、勤務中に脳梗塞で倒れたという「メディア災害」の経験があった。それが彼を報道の世界に向かわせたのだった。

 厚労省の調査によると、過去2年間に聖徳会日野病院で実施された生体腎移植のドナーのうち、1例だけカルテが不明なものがあった。沼崎は樹海の凍死体とこの不明のドナーを結びつけ、「第二の臓器売買疑惑」というスクープを流してしまう。自分も加害者になったのだ。そこにかつて同じ出版社にいて恋人だった由香里が現れる。由香里は渦中の日野医師の娘だった。その手には行方不明のドナー・カルテがあった。父親に頼まれ由香里が厳重に保管していたのだ。由香里は沼崎の誤報をはげしくなじる。

 ドナーは暴力団の抗争事件で殺人の罪を犯して服役し出所した男で、妻とともに旧姓に戻った実の娘に腎臓を提供したものだった。そのことを知られたくない父が、極秘にしてくれるように日野医師に頼んだのだ。由香里は沼崎に、上原議員の後援会長が太田医師であること、上原の娘は慢性腎不全で透析を受けていることを告げる。

 上原の娘を取材した沼崎は、彼女が腎移植を上海で受けたことを知る。2年前だ。適切な謝礼はしたが、脳死体からの腎臓移植だと口ごもるように弁解する。会社に連絡し、急きょ上海の虹橋空港に飛んだ沼崎に、思いもよらぬ展開が待ち構えていた。
 国内における圧倒的な臓器不足、それを食い物にする透析業界、自己利益のために患者を顧みない学会幹部と厚生官僚、移植ツーリズム。慢性腎不全患者をとりまく社会的問題を背景に、国際的広がりをもつ舞台に、主要人物を配して物語を最後まで引っぱっていく作者の力量は確かである。よく取材もしてある。 (720円+税)


会報第11号  
(通算26号)2013年
6月 10日
(月)発行発行者 NPO法人移植への理解を求める会 理事長 向田 陽二
     〒798-4101愛南町御荘菊川2290 電話0895-74-0512
編集者                 副理事長 野村 正良
〒791-8006松山市安城寺町1746-8 電話089-978-5434 
発行所                 事務局長 河野 和博
〒790-0925松山市鷹子町928-2   電話089-970-3943
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by shufukujin-kaihou | 2013-06-15 11:24
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